空き時間にどうぞ

伊藤万理華さんとの交流を主に書いています。

伊藤万理華個展『LIKEA』(#marikaito_likea)心斎橋PARCO最終日の記録

 

 

 時計の針が00秒を指すと同時に勤怠アプリの退勤ボタンを押し、8分後に出発する地下鉄に乗る。幸いにも、オフィスから心斎橋PARCOまでは電車で10分程だが、長堀鶴見緑地線の心斎橋駅からだと御堂筋線のホームを経由しなければならず、少し距離がある。

 


 彼女は、もう来ているだろうか。はやる気持ちを抑えつつ、エレベーターで14階へと向かう。入り口で注意事項の説明を受けて、入場料を支払う。ファンクラブのマイページを提示して、入場特典のラミネートカードを受け取る。

 


 中は人だかりだった。40人程度はいるだろうか、全員が壁に向かって同じ視線を向けている。隙間を縫うように視線の先を見遣ると、小さな身体で画面いっぱいにマッキーでイラストを描き進める女性がいた。伊藤万理華だ。

 


 本日は、彼女の個展『LIKEA(#marikaito_likea)』の大阪会場最終日であり、夕方に本人が在廊するという情報が心斎橋PARCOの公式Twitterアカウントで告知されていた。告知がなくとも、最終日かつ、上演中の舞台『装飾時計』の大阪公演がマチネのみというスケジュールから、私は本人が在廊するのではないかという淡い期待を抱いていた。公式アカウントの発表には安堵すると共に、「夕方」という大まかな時間設定に間に合うかどうかという不安もあった。

 


 伊藤万理華は、会場の奥の壁面に彼女のお馴染みのキャラクターと、蝶や電気ウサギ、キノコやカタツムリ等を世界観たっぷりに描き進める。バランスが取りづらい壁に、ほぼ迷いなく、時に上を見て考えながらペンを走らせる姿は路上アーティストのような佇まいであり、その様子を沈黙した観客が見守る。

 


  「できた」「写真撮ります」「皆さんもどうぞ」と彼女は言って、イラストの前でポーズを決めた。描いている最中は、フニャッとした笑顔だったり、真剣な表情を見せていた。それが、写真撮影の際には、"フォトジェニック"の異名を遺憾無く発揮し、含みを持たせた鋭い目つきを見せる。その変化を眼前に出来ただけでも幸運なことだ。

f:id:nichijyounotokimeki:20230207002706j:image

 


 「次はどこに描こうかな」と、彼女が移動した先はまさかの私の目の前だった。会場が混み合っていることもあり、身動きもほとんどできないまま、私から1mにも満たない距離で彼女は描き始めた。あまりの近さに常人であれば恐れ慄いてしまう距離なのかもしれない。描く姿は勿論、スカートに描かれた象のイラストも気になる。あまりにもカジュアルな距離感は、貴重であり、また当たり前でもあるような不思議な感覚をもたらした。ただ一つ言えることは、変わらない安心感がそこにはあった、ということ。彼女が放つ空気は、人当たりがとても良いのだと思う。仕上がったイラストは宝飾時計の杏香だ。イラストに指を差して伊藤万理華がポーズを決めると同時に、何故か私もイラストを指差した。描いている最中は横顔か後ろ姿だったが、こちらを向くと愛らしさを残しながらも自信に満ち溢れた美しい姿に、私の心はかつての恋心を取り戻したようだった。

f:id:nichijyounotokimeki:20230207002738j:image

 


 次に、「どうしようかなー」と、GROWING WALLの前で考えるも、「ここは結構描いたしなー」と言いながら、一旦は描くことをやめ、手を伸ばすと簡単に届く距離で私の目の前を通り、彼女はレジの方へと向かった。もしかすると、レジ打ちをするのではなかろうか。彼女のあとをついていくように、私はグッズ売り場へと向かった。そして、ポストカードを手に取り、レジへと並ぶ。周りの人々は皆、ただただ彼女を見守るだけで、追従する者はほとんどいなかった。

 


 彼女はレジの奥へと入り、iPhoneを頭上に掲げて、「みんなの写真を撮ろーっと」と宣言して数回シャッターを切った。その写真は後にストーリーズに掲載されることとなる。

 


 私のレジの番はすぐに来た。「何買ってんの?」と、伊藤万理華はレジの前の台を覗き込む。何度も何度も。彼女は何かを考えているようだった。そして閃いた彼女は、「バッジあげる!どうぞ!」と、何種類かある缶バッジの内の1つをケースから取り出して、私に手渡してくれた。本来は、書籍とグッズで合計5,000円以上買い物をしなければもらえない特典だ。そのところを、彼女の優しさから、本人直々で手渡してくれたのだ。しかし、正直なところ、その時はまさかの出来事に驚き、夢の中にいるような感覚でもあったため記憶には自信がない。それでも、缶バッジはたしかに彼女の手から私の手へと渡ったことに違いはなかった。私は「ありがとう」と受け取り、「ずっと見ているし、楽しんでいます!」と伝えた。すると彼女は、「ふひひ」と笑って、視線を逸らした。「私を見て楽しんでくれているのが嬉しい」と、かつて彼女がアイドル時代に握手会で言ってくれたその言葉は彼女を追い続ける上でのとても大切なもの一つになっている。だから、今でもそうですという気持ちを伝えたくて、その一言だけでもと伝えた。伝えられて本当に良かったと思う。実際に会って、一言でも直接言葉をかけられる機会があることは、ファンにとって本当に貴重だ。そのことを改めて実感した瞬間だった。そのやりとりの後に、「みんなにバッジを配ろう」と、彼女は少しの間、グッズを購入した人にバッジを配り、幾らか言葉を交わした。少し下がって見ていたが、とても楽しそうで、嬉しそうだった。ファンが彼女に勇気づけられるように、彼女にとってもファンと接することで得られるものがあるならいいなと思った。

 


 混乱を招かないようにか、バッジ配りは数人で終わってしまい、彼女は一度バックヤードへと戻った。私は直接話せた余韻に浸りながら、展示物を改めて鑑賞した。しばらくすると入り口を出てすぐのところから拍手が聞こえた。彼女は外へと移動し、入り口の壁面にイラストを描き入れていた。

f:id:nichijyounotokimeki:20230207002807j:image

 


 こんなにも贅沢な空間が現実にあることは奇跡なのだろう。伊藤万理華は、現場に居合わせた50人弱のファンに奇跡を見せていた。個展の最終日にここまで進化させ、ファンを更に楽しませる。彼女の表現者としての姿勢は、多くの人々に勇気と元気を与え、世の中をより豊かにするものだと思った。

 


 場外の壁面を描き上げると、また場内へと戻り、「ありがとうございました!」と丁寧に挨拶をしながらバックヤードへと戻った。

f:id:nichijyounotokimeki:20230207002831j:image

 


 私は数人のファンとともに閉館間際まで会場に残り、個展の閉幕を見届けた。

 


 御堂筋を帰りに歩き歌うは設定温度。

 


 夜空には朧月。

 


 もらったバッジは後生大事にする。

f:id:nichijyounotokimeki:20230207002909j:image

 

 

 

 

 

 

おわり